Bitcoinの隠れた費用

The Hidden Costs of Bitcoinの一部の翻訳です。

 

 あなたがBitcoinや暗号通貨について情報を集めているのなら、採掘者はネットワークの安全性を確保するために計算能力を提供しているという主張を恐らく見ることがあるのではないだろうか。採掘者が提供する安全性の対価として、採掘者には採掘報酬及び取引手数料が与えられる。それでは、ネットワークの安全性を確保するために投入される資源がどれくらいであるべきかということと、そのような安全性の対価として与えられる「価値」はどれくらいであるべきかということを正当化する根拠はあるのだろうか?
 より多くのハッシュ計算能力がネットワークの安全性を確保するために投入されれば、それだけネットワークの安全性が向上するというのが従来の暗号通貨の常識である。そして、政府のような敵対者からネットワークを保護するためには可能な限り多くのハッシュ計算能力が必要で、1つ1つのハッシュがネットワークをより安全なものにするというのが結論である。
 ハッシュ計算能力によって提供される安全性の本質と目的に関するこのような単純化された見方は、限界効用という非常に重要な経済学的な概念を無視している。限界効用とは、モノやサービスの消費量又は利用可能な量が増加するに従ってその価値が減少することを言う。たとえば、あなたが食物を少しも持っていないのなら食物の価値は非常に高いし、食べられる以上の食物を持っているのなら食物に価値はない。
 我々が生活している社会では、多くの人々が安全性は限界効用の法則の例外であると考えるように仕向けられている。政府は一層高い安全性が必要であると喧伝し、そのためにはより高い税金が必要であると喧伝することによって存続を維持している。
 残念ながら、安全性を一定量ずつ上げていっても、次第により低い価値しか得られなくなるし、次第により高い費用が掛かるようになる。この原理は暗号貨幣の領域においても成り立つ。実際のところ、余りにも高過ぎる安全性は実用性を損なうだけである。
 安全性を確保するためには多くの様々な方法が考えられるが、どのような方法が用いられるかは敵対者が誰であるかによって異なる。たとえば、あなたは政府の侵略行為から自身を守るために武器を備蓄したり、非常に高い防壁を築き上げたりはしないだろう。あなたがどれだけ多くの武器を揃えたり、どれだけ高い防壁を築き上げたりしても、政府は包囲攻撃をして、直接対決に勝利することができるだろう。その一方で、普通の柵や何匹かの犬やもしかしたら何人かの武装した守衛は一般的な民間での犯罪から自身を守るためには十分過ぎるだろう。
 武器や防壁は政府の侵略行為からあなたを守ってくれないが、私事に関して知られたり、干渉されたりしないようにしながら、好意的な世論を形成するのは、長期的に見て政府でさえも容易には打ち勝つことのできない組み合わせである。Alex Jonesは、あなたが彼のことを好きであるか否かに拘らず、安泰である。何故ならば、彼は極めて大衆に良く知られている人物であり、仮に政府が彼のラジオ番組の放送を中止しようとしたならば、その結果として生じる激しい抗議は、大衆に認められている正当性を政府から失わせ、それは政府にとって最も大きな痛手となる。大衆に認められている正当性がなければ、政府は全ての権力を喪失する訳で、これこそが政府の侵略行為から自身を上手く守るための手段を確保する際の秘訣である。
 結局のところ、安全性は経済に帰着する。暗号貨幣を使用するのが暗号貨幣に敵対するよりも利益があるならば、市場原理が暗号通貨を成功と成長に向かわせる。ここで私は「利益がある」という言葉を最も包括的な意味で用いている。何故ならば、政府の通貨は管理が第一の目的であり、財産としての役割は二の次であるからだ。そうであるから、政府から暗号貨幣を守るためには、政府と暗号貨幣を敵対させようとすることによって政府に「より強い管理」をさせるのではなく、暗号通貨の繁栄を可能にすることによって政府に「より強い管理」をさせなければならない。これは必ずしも暗号貨幣が政府の管理権限の強化を支援するということを意味するものではない。そうではなく単に政府が暗号貨幣と敵対すれば、政府は既に有している管理の基盤である正当性を喪失することになるということを意味しているのである。
 これらの点を念頭に置いて、暗号貨幣が全ての攻撃者に対する安全性を最大化することのできる方法を見ていきたいと思う。

 

ハッシュに基づいた安全性がどれくらい必要であり、我々は幾らの対価を支払っているのか?
 最も簡単な問いは、我々が(Bitcoinの保有者として)ハッシュに基づいた安全性のために幾らの対価を支払っているのかということである。その答えは、1年につき、保有Bitcoinの約1割である。あるいは、時価総額で言えば、約17億ドルの保護のために、1年につき、約1億7000万ドルを支払っている。我々は貨幣の価値が減少するインフレーションと取引手数料を通してこの対価を支払っている。
 ハッシュ計算能力は51%攻撃として知られているものから我々を保護することになっている。十分なハッシュ計算能力を有する者は、この攻撃によって、2人の異なる人物に同一の貨幣で2回支払いをすることができる、「二重消費」として知られているものを遂行することができる。この攻撃において言及されていないことがある。それは、二重消費者が匿名であり続ける必要があるということである。そうしなければ、二重消費者は詐欺又は窃盗の罪で告訴又は告発を受けるかもしれない。重要な取引を匿名のままでするということはないだろうから、二重消費をすることによって得られる利益は、採掘をすることによって得られる利益より遥かに少ないだろう。実際のところ、既に商人はクレジットカードの支払い拒否を通じて、遥かに簡単な二重消費攻撃に取り組んでいる。
 これは、民間での匿名犯罪を行おうとした場合において、使用者をより大きなネットワークから隔離することと、偽造ブロックを生成することの両方が余りにも代償の大き過ぎるものとなるところが、「二重消費」攻撃に対する保護の閾値であるということを意味する。実際のところ、これは、利益を志向した二重消費攻撃を防止するには、100万ドルから1000万ドルあれば十分過ぎるということを意味する。確かにこれだけあれば、今日クレジットカードの支払い拒否が発生する可能性のある殆ど全ての場合で攻撃を防止することができるだろう。
 利益を得ることが動機なのではなく、通貨と権力の独占に対する脅威を排除したいということが動機となっている政府による攻撃の場合はどうだろうか? 政府は数十億ドルもの秘密の予算を有しているし、法律を作り、通貨を発行する権能を有している。ハッシュ計算能力では政府による強制的なパケット規制(包囲攻撃)からネットワークを保護することができない。政府は、特製の機器を製作して(秘密裏に)採掘場が協力することを強制させたり、さもなければ、ハッシュ計算能力が完全に意味のないものとなるような方法で市場を管理したりするための資源を有している。
 更に、政府は裁判所において争われた全ての取引を命令によって無効にする権力を有する。確かに政府は直接ブロック鎖上の暗号を破ることはできないかもしれないが、それでも、好きなときに何時でも二重消費と道義上同等のことを行うことができる。
 それならば、我々が1年につき支払うこの1億7000万ドルから得られ、1年につき100万ドルから1000万ドルの支払いでは得ることのできないものとは何であるのか? 私の考えでは、全く何もありはしない。それは、1000人の武装した守衛を雇用することによって、10人だけ雇用するのと比較して、あなたの家がどれくらい追加的な安全性を得られるかと言うようなものである。10人の武装した守衛は、政府を除いて全てからあなたの家を守るのに十分な数である。しかし、1000人もの武装した守衛がいたとしても、政府からあなたを守るのには十分でないだろう。
 最近の(そして、今尚進行中の)44人の成員が回答したbitcointalk.orgにおける調査では、88%が、ネットワークがハッシュ計算能力に費やすべき金額は常に多い方が良いと回答した。これは2つのことを示唆している。1つ目は、費用が社会化されると、他人が支払っているため、人々は常により多額の費用を求めるということである。2つ目は、殆どの人々が限界効用を理解していないということである。本記事の残りを読み終わったら、調査に参加し、自身の評価を説明することを勧める。

 

通貨発行についてはどうなのか?
 採掘によって達成されるのは安全性の確保だけではない。採掘は、貨幣の分配やブロックが生成される速度の管理など。他にも幾つかの目的を果たしている。残念なことに、必要以上にハッシュ計算能力による安全性の確保に対して費用を支払うと、この2つの目的の達成に悪影響が及ぶ。
 1つ目について言えば、採掘は益々集中化され、新しい機器が投資を回収することのできる限られた期間の所為で、益々最新の製造工程が身近にあり、それらを利用することのできる十分な資金を有している者の管理下に置かれるだろう。これは、次の数年間で生成されるBitcoinの3割を一握りのASIC業者が獲得するということを意味する。明らかにこのような集中化は、貨幣を分配するために採掘を用いるという、一般に受け入れられている目的とは異なるものである。この水準の集中化はネットワークの安全性をも危うくする。
 2つ目について言えば、ハッシュ計算能力が非常に急激に上昇しているため、Bitcoinは実際のところ10分毎という仕様より速くブロックを生成している。そのため、ASIC業者はBitcoinの意図している設計と社会的な契約を超えるインフレーションに著しく寄与している。ブロック鎖は2013年5月には予定を8000ブロックより多く超えて進んでいた。そして、ハッシュ計算能力の成長が継続するのならば、インフレーションは意図されていたものよりもっと継続するだろう。その結果は、毎年意図されていたものより多くの費用がハッシュ計算能力による安全性の確保に支払われ、「安全性」の提供者だけが利益を受けるというものである。これは政府によって提供される安全性の本質と類似する点を有しており、不安に駆られる。
 今までの話であなたが納得していると良いのだが、安全性確保のための費用を1桁多く支払うということには、ブロック生成速度を管理したり、二重消費攻撃を阻止したりするために必要となるものより遥かに大きなBitcoinの質の低下というような悪い副作用がある。更に、今はもう明確なものになっていると良いのだが、毎年1億5000万ドルを超える費用が、ハッシュ計算能力は銀行や政府による攻撃を阻止することができるという悲惨な信仰に基づいて、効果のない安全性確保の手段に対して支払われている。

 

どのようにしてネットワークの全体的な安全性を向上させることができるのか?
 修正するのが最も簡単なのはブロック生成の速度である。何故ならば、現在の動作は「不具合」であり、Bitcoinの社会的な契約において目標とされている設定値とは乖離したものであるからである。ブロック生成の難易度が算定される方法を微調整すれば、ブロック生成の歪みを収束させ、ブロック生成の速度を目標とされている数値に回帰させることができるかもしれない。残念ながら、Bitcoinの開発者はこの問題が修正に値するとも、また、微調整を行うことによって加速されたブロック生成速度によって利益を得ている採掘者の利益を是正することができるとも考えていない。
 社会的な契約や既得権者の所為で、ハッシュ算法(hashing algorithm)の変更や採掘報酬を与える方法の変更など、他の解決策を考えるには、Bitcoinは余りにも遅過ぎる段階にある。このようなBitcoinの弱点は、解決策を提供し、確実な地盤を得ることのできる新しい暗号貨幣にとっては恩恵である。

 

次世代の暗号貨幣
 Bitcoinには余りにも遅過ぎるが、Invictus Innovationsはこれらの問題の解決を狙う新しい考えを取り入れている。もし1年間に1億5000万ドルの、高過ぎて、無駄で、過剰な「ハッシュ計算能力による安全性確保」に向けられている費用が、全体的な安全性が向上するような方法で、開発やマーケティングや宣伝に向けられたならば、何が達成されるか考えてみよう。
 ただし、その議論を行う前に、少々時間を取って、暗号「貨幣」を明確なものにする比喩を導入したいと思う。
 暗号貨幣を分散型自治体(decentralized autonomous corporation:DAC)における株式であると考えよう。分散型自治体においてはソースコードが定款である。分散型自治体の目的は、自由市場のために価値のあるサービスを提供することによって、株主のために利益を得ることである。この目的を念頭に置いて、分散型自治体の動作を規定する定款制定の全ての段階において、株主の価値を最大化することを目標とする。
 分散型自治体が動作するのに必要となるサービスを得る方法は1つだけである。それは分散型企業における株式で対価を支払うことである。必要となるサービスの1つは、取引の検証である。もう1つ必要となるのは、民間での(利益を目的とする)犯罪による二重消費攻撃に対する安全性である。更に必要となるのは、伝染性マーケティング(viral marketing)の組織的な運動である。これらに限られないが、他には、顧客の私事権や通信規制に対する防御などである。
 利益を目的とする分散型自治体の目標は、価値を最大化し、費用を最小化することである。この場合、我々は分散型自治体が有効な安全性確保の手段にのみ対価を支払い、株主の価値を最大化するのに不要な対価は支払わないことを望む。
 このような目的を達成するために、Invictus Innovationsは次のような方法を考えている。
  1.GPUやASICの採掘が利用可能になったかどうかに基づいて定期的にハッシュ関数(hashing function)を変更するという社会的な契約によってGPUやASICに耐性のあるハッシュ機能を作成する。
  2.専ら採掘者に対価を支払うのではなく、株式分割を通して新しい株式を発行する。
  3.事業を行うことによって得られる取引手数料から配当を支払う。
  4.分散されている状態を維持し、ブロック内の領域を取り合う競争を促進するためブロックの大きさを制限する。その結果、取引手数料が押し上げられる。これは両者に利益があるものである。何故ならば、集団によって生み出される分散状態は価値があると考えられるし、取引手数料は株主に利益を齎すからである。
  5.平均ブロック生成速度を長期的に安定的で予測可能なものにするため、難易度調整の方法を改良する。
  6.業界において他の分散型自治体が提供していないような新しい機能とサービスを導入する。
 要約すると、分散型自治体は伝染性マーケティングを促進し、民間での犯罪からネットワークを保護するのに十分な計算資源を得るのに十分な対価のみを採掘者に支払うことを目標とするべきである。BItSharesに関する我々の白書では、配当と採掘報酬の割合をそれぞれ半々にすることを提唱している。しかし、経済分析とハッシュ計算能力による安全性確保の価値に基づいて考えると、これでもまだ採掘報酬が余りにも高過ぎるのかもしれない。
 もしかしたら誤解があるかもしれないので言っておくと、我々は自身の分散型自治体の株式を公開前に採掘していないことを約束する。そして、最初に株式を得る方法は採掘のみである。これは、一般大衆に良い感触を持ってもらい、採用を促進し、最終的にはネットワーク効果によって得られる更なる価値によってこの分散型自治体の株式の価値をより早く押し上げることを目的とする戦略である。換言すれば、我々は公開前の採掘が株主の価値を最大化しないと信じているし、そのため、分散型自治体は公開前の採掘を行うべきでないと信じている。