持分証明(proof of stake)について

Bitcoin Wikiproof of stakeの一部を翻訳しました。

 

持分証明(proof of stake)
 持分証明は仕事証明(proof of work)の代替として提案された採掘方式である。仕事証明と同様に、誰が暗号貨幣の取引に署名したかを決定する。
 持分証明は恐らくこのスレッド(https://bitcointalk.org/index.php?topic=27787.0)においてQuantum Mechanicによって初めて提案されたと思われる。仕事証明の場合、ブロックを発見できる確率は採掘者によって為される仕事の多寡に依存している(たとえば、ハッシュ値を計算するのに消費したCPU/GPU時間)。持分証明の場合、新しい貨幣が採掘される源泉は採掘者が保有している貨幣の量である。貨幣を1%保有している者は持分証明によって作成される新しいブロックの1%を実際に作成することができ、それに応じて貨幣を鋳造することができる。
 仕事証明のみに基づいた貨幣の採掘方式では、使用者を新しいブロックの発見(延いては新しい貨幣の鋳造)に向かわせる力が共有地の悲劇(tragedy of the commons)という現象のために時間の経過と共に減退していくため、ネットワークの安全性の低下を招来する可能性がある。持分証明は採掘者にとって高いネットワークの安全性が有利に働くようにして、採掘者の行動をネットワークの安全性の向上に寄与させる1つの方法である。

持分証明の動機
 ・持分証明は悪意のある攻撃に対するネットワークの保護性能を向上させる可能性がある。これは次の2つの点から得られるものである。
   1)仕事証明の場合より攻撃を実行するのに必要な費用が大きく増加する。
   2)攻撃を実行する動機が薄い。攻撃を実行するには過半数に近い貨幣を所有する必要がある。そのため、攻撃を実行すると、攻撃者自身も大きな痛手を被ることになる。
 ・ブロック報酬が取引手数料を使って生成される場合には、取引手数料は低い額で均衡する。長期的に持続する低額の取引手数料は貨幣の、他の決済手段に対する競争力を向上させる。直感的には、取引手数料の低減は資源の浪費規模の顕著な縮小によるものである。

独占の問題
 単一者が取引の検証に使われる資源の過半数を掌握している場合には、その資源を使用して、ネットワークに参加している他の者に対して(通常は)無理な要求を認めさせることができる。潜在的には、このような独占者は二重消費(double spending)やサービス拒否など、悪意のある所業を行う可能性がある。独占者が悪意のある戦略を選択し、長期に亘って支配力を維持した場合には、貨幣に対する信認が毀損し、貨幣の購買力が消散する。あるいは、独占者は善意のある行動を選択する可能性もある。善意のある独占者は他の全ての取引の検証者を取引手数料の収集及び新しい貨幣の鋳造から排斥するが、決して貨幣の保有者を搾取しようとすることはない。独占者は自己の高い評価を維持するために二重消費を自制し、サービスの提供を続行する。この場合、全ての基本的な貨幣の機能は影響を受けないため貨幣に対する信認は独占下においても維持される。
 善意のある独占も、悪意のある独占も、独占者にとっては潜在的に有益なものである。すなわち、企業家的な採掘者が何処かの時点で独占者になろうとする可能性があるという主張は尤もである。共有地の悲劇という現象のために独占が企図される可能性は時間の経過と共に次第に高まる。

持分証明は如何にして独占の問題を解決するのか?
 持分証明に基づいた採掘方式を採用したとしても、依然として独占は可能である。しかしながら、持分証明は2つの理由により悪意のある攻撃に対して仕事証明より安全である。
 1つ目の理由は、持分証明は検証の独占を達成し難くするということである。仕事証明の場合、本文書の執筆時点(のBitcoin)においては、計算装置に対して高々1000万米ドル投資すれば独占を達成できる。難易度が増加するに従って他の採掘者は採掘を中止していくため、もしかしたら実際に必要となる投資額はこれより少ないかもしれない。ただし、難易度が増加した場合においてどれくらいの採掘者が採掘を中止するのか正確に予測するのは困難である。持分証明の場合、極めて巨大な買いがあっても貨幣の価格が騰貴しないと仮定したとしても(そのようなことはあり得ないが)、独占を達成するためには少なくとも2000万米ドルは投資する必要がある。巨大な買いは貨幣の価格を劇的に騰貴させるので、実際には更に数倍投資しなければならない可能性が高い。そのため、現時点においてさえ、持分証明の場合において独占を達成するのは仕事証明の場合より数倍費用が掛かる。Bitcoinと同様の貨幣では採掘報酬の、市場価格に対する比率が指数関数的に下降するよう設定されている。仕事証明の場合、独占を達成するのは下降が昂進するに従って容易になる。対照的に、持分証明の場合、独占を達成するのは流通する貨幣の総量が増加するに従って困難になる。
 2つ目の理由は、持分証明の場合における独占者は正に自己の持分のために善意のある行動を執る可能性が高いということである。善意のある独占においては、貨幣の取引は恙なく継続されるが、独占者が全ての取引手数料と新しく鋳造された貨幣を獲得し、他の取引の検証者は排斥されることになる。採掘は貨幣に対する需要の源泉ではないため、善意のある攻撃が発生した場合であっても貨幣は殆ど全ての価値を維持する可能性がある。持分証明と仕事証明の如何を問わず、攻撃者が善意のある攻撃から得られるものは同じである。ところが、悪意のある攻撃においては、攻撃者は貨幣システムの崩壊によって貨幣システムの埒外において利益を享受する機会を有する(この場合、単なる二重消費の実行は妥当な動機ではない。それに対して、競合する決済基盤の所有は妥当な動機である)。他方で、攻撃者は貨幣に対して実施した、攻撃のために不可欠な投資による損失に直面する。悪意のある攻撃によって貨幣の購買力が消散することが想定される。持分証明の場合、独占者がこのような攻撃を実行した場合には、投資金額の全てを喪失することになる。対照的に、仕事証明の場合、悪意のある独占者は攻撃のために投入した計算装置を処分することによって計算装置に対する投資の大部分を回収することができる。しかも、仕事証明の場合において必要となる投資は持分証明の場合に比べると遥かに小額である。そのため、仕事証明の場合には、悪意のある攻撃に掛かる費用は持分証明の場合より数倍安くなる。悪意のある攻撃が安い費用で実行できるという事実は悪意のある攻撃が実際に発生する可能性を高める。

何故持分証明は長期的な取引手数料を大幅に減少させる可能性が高いのか?
 競争均衡(competitive market equilibrium)においては、取引手数料の総額は取引の検証に使用される全ての資源の機会費用(opportunity cost)に等しくなるのが必定である。仕事証明の場合においては、機会費用は採掘電力、採掘設備の減価償却費、採掘労働力及び採掘資本の市場利益率(market rate of return)の総和として計算することができる。この場合、電力費用、採掘設備からの利益及び採掘設備の減価償却費が支配的である可能性が高い。これらの費用が小額である場合には、採掘ネットワークを独占するのは非常に容易である。独占を阻止しようとする場合に必要となる取引手数料は苛烈であり、もしかしたら現在クレジットカードによる購入を行った際に賦課される3%の手数料を上回るかもしれない。純粋な持分証明の場合においては、機会費用は採掘労働力及び貨幣の安全融資(risk-free lending)における市場金利(market interest rate)の総和として計算することができる(計算装置に係わる費用は無視することができる)。Bitcoinと同様の貨幣では予定されている供給の上限によって貨幣の価格は時間の経過と共に騰貴するように作られているので、安全融資の金利は無視できる可能性が高い。そのため、純粋な持分証明の場合においては、取引手数料の総額は単にデータ転送量と記憶装置の記憶領域の保守に従事する労働力を相殺するのに十分である必要があるだけである。取引に付随する手数料は非常に小額となる。このような非常に小額の取引手数料にも拘らず、持分証明に基づいた採掘方式を採用している貨幣システムのネットワークを悪用するのは仕事証明の場合より何倍も費用が掛かる。大まかに言って、仕事証明に基づいた採掘方式を採用している貨幣システムのネットワークは約1年分の鋳造によって獲得される貨幣と取引手数料に等しい費用を使えば悪用することができる。対照的に、持分証明の場合においては、現存する過半数或いは過半数に近い貨幣を購入する必要がある。